HARU COMIC CITY20内『はるかぜとともに』(2015.03.15)
 小説『ぼくのわたしのうすいほん』(病葉 侍罹)


・フームが少しだけ腐女子化しています。


ププビレッジは小さな村なので、流行や噂といったものはすぐに広がる。
最近の流行は本だ。ただし本といってもただの本ではない。ビブリの店では手に入らない、裏のルートでのみ流通されているという本だ。内容はその本によって異なるが、多くはラブストーリーの様であった。
この国を治めているつもりらしいデデデは、欲しいと思ったものはどんな手を使ってでも欲しがる。
今日もまたカスタマーサービスを通じてショッピングだが、今回電撃と共にデリバリーシステムに現れたのは魔獣ではなく本の山。

「ホホホ、陛下もまた酔狂なご趣味で……」
「たまには貴様も役に立つな。もう下がっていいゾイ」

請求金額を聴きたくなかったデデデは容赦なく玉座のスイッチを押しカスタマーサービスとの通信を切った。
デデデが大量の本に向き直ると、エスカルゴンが早速本を手にとっていた。

「本のくせに、ペラッペラでゲス。しかも表紙に描かれているのはピンクボールばっかり。こっちはメタナイトでゲス」
「おお、ワシが表紙の本があるゾイ。エスカルゴン、これを読め」
「陛下の本があるなんて著者は悪趣味でゲスな」

デデデが無礼者を殴ると、彼は悲鳴を上げながらも渋々と本を読み聞かせ始めた。

「えー、なになに……『秋も深まり露天風呂に紅葉が映える季節になった。ワシの旺盛な知識欲は留まることを知らぬ故、エスカルゴンの殻の中身を知るべく温泉に連れて行くことにした』」
「ほうほう、それで?」
「『早速温泉に浸かるためにエスカルゴンは殻を脱ぎ始める。白熱灯の下に晒された体は思っていたより美』……って、うわあ! 何てこと書いてあるんだよ!」

まさか官能小説だと思わなかったエスカルゴンは顔を真っ赤にしながら慌てて本を閉じた。
デデデが続きを強請るが無視をする。
ムッとしたデデデは別の本を探して読み始めた。

「陛下、あんな話を聞いた後にもまだ読む気なんでゲスか。どうせ字ばっかりで読めないでしょうに」
「これは絵本ゾイ」
「なんでぇ、絵本かよ」

絵本なら字を読まなくても多少は理解できるだろう。少なくとも自分が本を音読させられるという苦行からは逃れられる。
エスカルゴンは熱心に本を読んでいるデデデを放って、別の仕事の為に玉座の間を出る。
が、絵本という言葉に引っかかった。あの本の山は、噂に聞いた所謂同人誌というものだ。対象年齢に幼児は含まれていない。
嫌な予感がして、エスカルゴンは部屋に戻った。

「え、絵本!? そ、それって……ちょっと陛下、それ貸しなさいよ! 貸しなさいったら! 陛下!」

だがエスカルゴンの努力は虚しく、既に後の祭りだった。
あくどい笑顔を浮かべたデデデは、貸して欲しければ交換条件がある、とデデデとエスカルゴンが表紙に描かれた本を広げながら、彼に見せ付けた。

「この絵本の姿の通りにせい! よおし、脱げー!」
「そ、それは……! あっ、いやーん!」

 数日前。大臣の娘の部屋に、彼女の弟が入ってきた。
ブンは床に山積みにされた本の中で読書するフームに尋ねる。

「姉ちゃん、そんなに難しい顔して何読んでるの?」
「ブンにはまだ早いわ」
「あっ、それって今話題の薄い本ってやつ?」

ブンはフームの読む小説の表紙を覗き込んで、うわっ、と声を上げて後ずさった。

「デデデとエスカルゴンじゃん。悪趣味だなあ」
「そう、悪趣味! 悪趣味なのよ。でも何故か人気があるの。どうしてかしら」

フームは本を閉じて考え込む。姉ちゃんなんだか気味悪いぜ、というブンの心配そうな声は最早届かない。

「どうして彼らのようなゲテモノの極みが本になってそれが売れるのか、私、知りたいのよ! きっと何か人を引き付ける奇妙な魅力があるに違いないわ!」
「ね、姉ちゃん?」
「こうなったら私も自ら薄いマンガを描くしかないわね……、たとえそれが、デデデとエスカルゴンのアダルトな本だったとしても!」

フームはそう叫ぶなり積みあがった同人誌とブンを押し退けて机に向かった。手にしたのは紙とペンだ。
かつて有名な児童文学作家に、あなたのように夢を見て、私もいつか本を書く、と誓った彼女が描いた漫画が、まさかデデデ本人の手に渡ってしまうとは、この時はまだ誰も想像できなかったのだった。


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