音叉と兄弟喧嘩

   ・即.興.小.説.ト.レ.ー.ニ.ン.グ ログ01。
   ・幸せ家族設定のサイケ+デリック。
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「音叉を置いてみようと思う」

唐突にそう切り出した彼は何の躊躇いの色も見せなかった。黙って静かに歩みを進めると、来客用のテーブルの上に、ことり、と銀の音叉を置いた。音叉からコードの尻尾が延びている。

「この音叉は特殊仕様さ。一定以上の周波数を記録すると、パソコンにその数値を教えてくれる仕組み」

高級そうなオフィスチェアに腰を据えて、ぐるり、と一回転すると、彼は子供達に言いつけた。

「絶対に仕事の邪魔をしないこと!いいね!!」

音叉の前に座らされた二人は顔を見合わせた。
兄が口を開く。

「ままがおこったの、でりーのせいだよ」

頬を膨らませて、弟に半開いた眼――所謂ジト目というアレだ――を向ける兄、サイケに口答えしようものならたちまち喧嘩になってしまうことはよく分かっているので、弟は視線に文句を込めながら、黙って事務所の階段を上った。
何か反応するだろうと思っていたサイケは拍子抜けした。弟が自分に突っかからなかったことなど滅多になかったのだ。今は初冬だが、明日はセミが鳴くくらい暑くなるだろう。
せっかくからかってやろうと思ったのに。サイケは、がっかりした。
おとなぶっちゃって。さいけのほうがおねえちゃんなのに。
いつも母を追っかけまわして、母ちゃんきれーい!キスしていい?、とか、やっぱ父ちゃんには母ちゃんは勿体ないよな……俺が幸せにしてやるから俺と結婚しない?、とかほざいている弟のくせに、生意気だ。
サイケは母の言葉にしたがって黙って事務所の階段を見上げた。
弟が自分を見下ろして、べえっと舌をだした。
なんだ、まだまだ子供じゃないか。

「でりーのばかあああああ!!」
「サイケうるさい!」

ハメられた瞬間だった。





   お題:ダイナミックな声
   制限時間:15分
   文字数:約726字

   2012.12.xx
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